朝日連峰 天狗角力取山
期 間:平成15年3月21日(金)〜23日(日)
メンバー:小谷部,窪田(道),仲野
21日
 一人郡山から合流する仲野さんと,7時に山形道の月山ICで待ち合わせ,大井沢に向かった。今年は雪が少ないと思っていたら,朝日連峰はさにあらず。大井沢から登山口への林道は雪壁になっており,十分な雪が期待できそうだ。また,林道は砂防ダム工事のため除雪してあったが,このまま林道の奥に車を残置するのは不安に思えたので,とりあえず荷物だけ降ろし大井沢に引き返す。なお,車は林道入り口の近くにある「民宿橋本荘」の駐車場に置かせてもらった。駐車場から荷物を置いた所までは約30分ほどの歩きで,スキー等の準備をして9時頃出発した。
 林道を40分ほど進み,障子ヶ岳との分岐まず休憩。天気が良く暑いので,上着を脱ぐ。登山道に沿って尾根を進むが,雪がべっとりとシールにこびりついてしまい。なかなかペースが上がらない。焼峰を過ぎ,竜ヶ岳の登りに差し掛かる頃,急に仲野さんが登りでもがき始めた。ズリズリとスキーが滑り,なかなか登れない。急にどうしたのかよく見ると,クライミングサポートを使ってなかった。ここまではさほど急斜面がなかったせいか,ストックを使って腕力で強引に登ってきたらしい。しかし,疲れてきたので思うように登れなくなってきたようだ。ちなみに仲野さんは入会したばかりの新人だが,数十年前に山スキーしたことがあるらしく古い山スキーを持っていたので,そこら辺のことは知っていると決めつけたのが間違いだったようだ。クライミングサポートの存在を教えると,「こんな楽なのがあるとは!」と感動していた。尾根をCo1100付近まで登ると,登山道は竜ヶ岳には登らずに,竜ヶ池の脇を通りP1255へ向かう尾根にトラバースしている。天気も良いし,天狗小屋までの時間稼ぎも含めて,竜ヶ岳をトラバースすることにしたが,これが間違いの元だった。
 トラバースを開始すると,始め緩やかだった斜面がだんだん急になり,ついでに藪も濃くなってきた。今まで稼いだ標高は出来るだけ失いたくないので,上部の藪の薄い所へ逃げる。しかし,仲野さんが追いついてこない。スキーが滑ってなかなか進めないらしい。傾斜が少しゆるんだ所で休憩を兼ねて仲野さんのシールを調べると,だいぶ氷っていた。日向で濡れたシールが,日陰で氷ったようだ。とりあえずジョリジョリとコンパスを擦りつけ氷を取り除く。完全復活とは言わないまでも,かなり滑らなくはなったようだ。その後も,急斜面や枝尾根の雪庇やらで迂回を余儀なくされ,予想以上に時間を費やしてしまった。結局,P1255への稜線に上がったときには16時を過ぎてしまった。地図でルートを確認すると,標高を下げるのを嫌う余り,登山道より高い位置の急斜面をトラバースして来たようだ。周囲の地形をよく見ると,一旦竜ヶ池の平坦部まで下りてから,P1255目指して登り返すのが正解だったように思われるが,今更悔いても仕方がない。時間的に天狗小屋まではキツイので,この稜線に雪洞を掘ることにした。幸い,雪は豊富で掘りやすく,2時間ほどで大きな雪洞を掘り快適な夜を過ごせたが,最初のスコップの一振りで,腰に”ズキン”と痛みが走り,雪洞堀りをほとんど2人に任せるような形になった。明日以降の行動に支障が出ないか心配だ。
22日
 5時に起きると,外は青空。今日も天気が良さそうだ。心配ししていた腰も問題ない。7時半に雪洞を後にして,とりあえず天狗小屋を目指す。P1255を過ぎると,カラスの鳴き声が聞こえてきた。この時期のこんな稜線上に餌などあるのだろうか?我々が近づくとカラスは鳴きながら,アッという間に竜ヶ岳の方に飛んでいった。我々が何時間もかけて登ってきた所を,ものの数秒で行ってしまう。なんか非常にうらやましかった。気を取り直してCo2900付近の雨量観測所辺りまで来ると,雪面がクラストしてシールの利きが悪くなり,ズリズリ滑りやすくなってきた。クラスト斜面をひと登りすると,斜面左奥に天狗小屋が見えた。天気は良いし,小屋もハッキリ見えるので,栗畑のピークをショートカットトして天狗小屋に滑り込んだ。
 天狗小屋は話しに聞いていたが,全く埋まっていなかった。ちょうど小屋のあるところが風の通り道なのだろうか,小屋の周囲だけ雪が少なく小屋の入り口付近は土が出ていた。今夜は小屋泊まりなので,とりあえず雪洞で湿った荷物を干したり,コーヒーを飲んだりしながら,これからの行動(滑りポイント)を地図を見て物色する。そして,小屋の中で2時間ほどくつろいだ後,今回は天狗角力取山から岩屋沢を滑ることにして,アタックザックで出発する。なお,天狗小屋は綺麗でしっかりとした小屋で,トイレも一部簡易水洗(簡易水洗は冬期間使用禁止)で小屋の中にあり,実に快適な小屋だったが,残念なことに小屋の中のトイレは氷っていて使えなかった。
 10分ほどで天狗角力取山に登り返し,シールを外して岩屋沢へスキーを滑らせた。カリカリのクラストがすぐに深雪に変わり,思い思いのシュプールを刻みながら岩屋沢へ滑り込む。連日の好天で雪質は余り期待していなかったが,意外と滑りやすく,沢の右岸から左岸のブナ林を繋ぎ,アッという間に150mほど滑って狭い沢床に着いた。最初は沢沿いにもっと滑るつもりだったが,肝心の岩屋沢は狭くて屈曲している上,雪が重くて滑りにくいので,ここから登り返すことにした。しかし,時間はまだ12時半を過ぎた所でたっぷりとあるので,このまま小屋に帰るのはもったいない。ちょうど滑った斜面の対岸,出合川へ至る登山道の北斜面に,サラサラのパウダースノーが生き残っていたのを見つけたので,次はそこを滑ることにした。
 シールを付け約20分の登りで稜線に出ると,とりあえず雪庇に気を付けながら以東岳をバックに写真を撮る。喉を潤し一休みした後,暑くて脱いだ上着やミトンを着て完全武装し,いざパウダー斜面に滑り込む。ブナ林の格好の斜面を,各々歓声を上げながら雪を蹴散らし快適な滑りを楽しむ。北斜面で日当たりが悪いせいか,連日の好天にもかかわらず雪が全く腐っていないので,快適なパウダースノーを存分に満喫できた。しかし,20分の登りで滑れる距離はたかがしれてる。標高差で約150m程度なので,アッという間に岩屋沢にたどり着いてしまう。ここで今日の滑りは終了。後は,ギラギラと照りつける太陽の下,シールにベッタリと雪の重しを付け,ゆっくりと2時間ほどかけて小屋に戻った。
23日
 今日も空が青い。昨日,一昨日に続いて好天だ。掃除をしてから小屋の料金箱にお金を入れて,7時40分頃に小屋を出た。小屋を出てまず天狗角力取山に登り返し,稜線沿いに栗畑に向かう。稜線上はカリカリにクラストしておりシールがちょっと利きにくい。栗畑からシールを外し雨量観測所めがけてカリカリ斜面を一滑りするが,スキーがバタバタと暴れて滑りにくく,疲れる滑りとなる。雨量観測所を過ぎるとクラストした雪面に最中雪が混じりさらに滑りにくくなった。そういうわけで,3人ともP1255手前の鞍部への直滑降の滑り込みで最中雪クラッシュ。同じ所でスキーが刺さり豪快に転ぶ。その後シールを付けてP1255を巻き,雪洞を掘った所まで来ると,辺りにスノーシューのトレースが付いていた。またこのトレースは竜ヶ池の方へ向かっている。おそらく,それが登山道のあるところなのだろう。雪洞の上で一休みした後に,最後の滑りを求め竜ヶ岳に向かった。
 竜ヶ岳の山頂付近は南北に広く平で,三角点のある山頂は南端にあるが,竜ヶ岳の三角点には興味がないので,北側のポコンから焼峰への尾根に向かう。最初は雪質の良さそうな北斜面沿いに尾根を滑るつもりだったが,出だしの尾根は細くて藪が濃いので滑るのをやめ,竜ヶ池方面の北斜面から回り込むことにした。北斜面に滑り込むと,出だしは最中雪でいまいちだったが,すぐにパウダースノーに変わり快調に2,3回ターンを決める。そして藪を避けるように右にトラバースすると,真っ白く光り輝く斜面に飛び出した。雪質はパウダーで傾斜も丁度よく障害物がない。滑りを楽しむには最高の条件がそろっていたが,その代わり沢状地形で雪崩の危険も考えられるので,3,4回雪煙を巻き上げてターンをしてから斜面の右側の傾斜の緩くなった尾根に抜けた。その後尾根沿いにブナ林を滑ると雪が堅くなってきた。よってパウダーを求めて先ほどの沢状地形まで戻り,その脇のブナ林を滑ることにした。2,3分ほどパウダーの滑りを楽しむと,スノーシューのトラバーストレースが見えたので,すぐさまトレースに移りトラバースを開始する。しかしスキーのトレースではないので,アップダウンがちょこちょこ出てくる。まだまだ下りは続くためシールは付けたくない。カニ歩きを使いまくり苦労して尾根に戻る。その後尾根沿いに滑っていくが,雪はだんだん重くなり滑りにくくなる。重い雪と格闘しながらどんどん下り,12時過ぎには林道に着いた。林道は,ジェットコースターで滑れると思っていたが,連日の好天と車両通過の為,車を残値した工事現場から先は雪が無くなり,小一時間ほどスキーを担ぐ羽目になった。
記 小谷部